「宇多川久美子のお薬講座」
サライ.jpで連載中の「宇多川久美子のお薬講座」に、睡眠薬に関する記事がありましたのでご紹介します。
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宇多川久美子さん
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用語集
半減期
薬を使用してから、有効成分の血中濃度が最高になるまでの時間を最高血中濃度到達時間(Tmax)と言い、そこから血中濃度が半分になるまでの時間を半減期(T1/2)と言います。正確には血中濃度測定地点から半減する地点が半減期になるので、基準とした地点によって意味合いが異なります。
参考資料:
ダウンレギュレーション
継続的または過度な刺激により、神経伝達物質やホルモンなどへの応答能が低下すること。それらの物質や信号の受容体の減少や、感受性の低下によって生じる。下方制御。下方調節。
出典:デジタル大辞泉
ベンゾジアゼピン系の継続使用により、GABA-A受容体がダウンレギュレーション(受容体減少や、感受性の低下)を起こします。その結果、薬の効き目が低下し、それに対し薬を増量すると一時的には効き目が戻りますが、やがて薬の効き目が低下します。ダウンレギュレーションにより薬が効かなくなるだけでなく、神経伝達物質のGABAも作用が低下し、興奮伝達を抑制する能力が低下します。
薬物依存
記事中には「身体依存」と「精神依存」が登場します。睡眠薬や抗不安薬による身体依存の正体は、GABA-A受容体のダウンレギュレーションと考えられています。しかし、臨床現場でGABA-A受容体を簡単に検査できないので、その結果起きていると考えられる「精神依存」を薬物依存の判断材料にしています。
薬物依存(精神依存)は、薬物への渇望が観察された時に診断されるそうです。渇望とは、何としてもそれが欲しい気持ちです。渇望から起きる薬物乱用などの行動も観察対象でしょう。
しかし、薬物依存の原因は身体依存なので、気の持ちようで解決しません。指導やアドバイスなど曖昧なものではなく、GABA-A受容体の状態を視覚化や数値化して、具体的に経過観察することが必要だと私は思います。初診時にそれが出来れば、薬の必要性や開始後の中止時期を具体的に決められそうです。
そもそも、睡眠や精神安定に大切な役割をしているGABA-A受容体へダメージを与える可能性がありながら、GABA-A受容体作動薬を使用する方針が間違っているのではないかという議論が必要です。
コンピューターで例えると、精神はソフトウェアで、身体はハードウェアです。ソフトウェアはハードウェアに支配されているので、ソフトウェアの改善でハードウェアの不調を完全に直すことはできません。ソフトウェアは抽象的な存在で、ハードウェアは具体的な存在です。例えば、Windows OSは様々なハードウェア上で動作しますが、ユーザーインターフェースや動作は共通です。これはハードウェアの違いをソフトウェアで吸収しているからです。しかし、ハードウェアの制限をソフトウェアで超えることはできません。
今の精神医療はソフトウェアのレベルで観察しているのに、ハードウェアに作用する薬を使用しています。そのことが様々な問題を起こしていますが、全部ソフトウェアの問題として葬り去ろうとしています。精神医療はリスクが高いが、責任は取らなくても良い構造になっています。