「医療保護入院」制度は不要か?
先日、Twitterに以下の記事をシェアーしました。

そうしたところ現役の精神科医をされている佐々木さんから「医療保護入院制度、不要でしょうか。」とコメントを頂きました。
医療保護入院制度、不要でしょうか。
— 佐々木幸哉@MEDICAL, “PRIVATE OPINION” (@YukiyaMEDICAL) 2019年4月7日
私はURLをシェアーしただけなのですが、記事内容に賛同していると受け取られたのかもしれません。記事を書かれているのはフリーライターのカコさんという方で、3年前の世界ベンゾジアゼピン注意喚起の日(7月11日)にお世話になった方です。
私は次のように返答しました。
カコさんの主張は人命を脅かすような医療保護入院は不要というものです。その結論が先にあり、それを補強する情報が書かれています。医療保護入院の対象者で保護されて良かったと思っている人もいるかもしれませんが、記事には登場しません。メッセージ性は強いのですが、医療保護入院を読み手に理解や判断させるような広がりはあまりないように感じます。カコさんのお考えはご著書の「青年はなぜ死んだのか: カルテから読み解く精神病院患者暴行死事件の真実」を読むことで理解できるかもしれません。
私は医療保護入院の対象になったことはなく、どういうものか詳しく知りませんでした。医療保護入院について詳しくないので不要かどうか答えられないが、予め制度を知る必要があると答えました。
精神科医の佐々木さんにとっては、頭ごなしに医療保護入院不要論を展開されることに嫌悪感があったと私は推察しました。
引用された記事は、最後の数行で破綻しているように、僕には思われました。
医療保護入院は、一般の方々がイメージする「強制入院」に近い入院形態ですが、精神科領域においては、拒否権を行使できるだけの判断能力が損なわれる疾患も取り扱わなければならないので、不要であるとは僕は考えません。
— 佐々木幸哉@MEDICAL, “PRIVATE OPINION” (@YukiyaMEDICAL) 2019年4月7日
一部の民間移送業者の不適切な対応への批判から「医療保護入院不要論」に至るのは飛躍が過ぎると思います。
医療保護入院や閉鎖病棟が廃止されて、幻覚・妄想に支配された統合失調症患者さんを精神医学の対象としなくてよろしいのであれば、それはそれで僕らにとって悪いお話ではありませんが。
— 佐々木幸哉@MEDICAL, “PRIVATE OPINION” (@YukiyaMEDICAL) 2019年4月7日
保護される本人に判断能力や意思表示能力が乏しい場合に、誰が代わりに判断すれば良いのか。代わりに判断した人はどの程度責任を引き受けるのか。国民はその辺りの議論に参加したほうが良いと思います。
私はどういうプロセスで医療保護入院の対象者に認定されるのかを知りたいと思います。医師の主観で多くを判断されると思うので、複数の医師と一般市民で判断してほしいと思います。
平穏な生活を送っている方は、医療保護入院について意識していないと思います。意識を向けさせるために、刺激的な事例を紹介するのは物書きとしては普通のことです。
私はルールは作った人の為に働くと思っています。「医療保護入院」制度があることで恩恵を受けようとする主体者は誰かを知っておく必要があります。制度とは事が起きる前に先に決めておくルールです。
話は変わりますが、家畜に伝染病が起きたときに殺処分する制度があります。殺処分することで、他の場所の家畜を守ります。この制度で恩恵を受けようとする主体者は人間です。人間の都合で家畜は殺されます。決して家畜が主体者ではありません。人間の恐ろしさが人間に向かう制度を作った場合どうなるか。
私は合法的な治療の累積で薬害をうけました。医師は患者と立場が入れ替わることがほぼないので、相手の立場になって考えることを忘れてしまいます。患者と同じ治療を医師は受ける覚悟はありますか?それが医療保護入院制度にも言えます。
必要か不要かのように二分してくる質問に注意していただきたいと思います。用意された選択肢の中から選ぶ生き方を止めないと、他人の人生を生きることになります。他にも選択肢があるにもかかわらず、それに気づけません。
一般人は医療保護入院制度を詳しく知りませんし、臨床現場に立ち会うこともほぼありません。麻薬や覚せい剤の乱用者が幻覚で迷惑行為をしている場合に医療保護入院が適用される場合があると想像します。その状態の方はインフォームド・コンセントが成立しませんので、医師が代わりに判断するしかありません。制度は資料で学べても、現場でなにが起きているのかは知らされていません。「医療保護入院」制度を適正に運用していくためにも、知らせていただけると議論が広がると思います。
交通ルールを知っておくことで交通事故を低減できるように、医療保護入院を知っておくことで自分を守れるかもしれません。この制度の対象者にならないように日々の行いに気をつけましょう。