『「期待」の科学 悪い予感はなぜあたるのか』クリス・バーディック著/夏目大 訳を読みましたのでご紹介いたします。
原題は「Mind Over Mind」です。Mind(マインド)とは人の中にある精神世界や知性を意味します。「心は心を超える」という意味ではないでしょうか。副題は「The Surprising Power of Expectations」です。意味は「期待の驚くべき力」です。日本語のタイトルはどちらかと言えば不安を煽っていますが、原題はポジティブな印象を受けます。本文を全部読んでから、タイトルを見ると原題の方が内容を言い表せていると思います。
期待とは
そもそも期待とは何でしょうか?辞書を調べると次のようにあります。
[名](スル)あることが実現するだろうと望みをかけて待ち受けること。当てにして心待ちにすること。「期待に添うよう努力する」「活躍を期待している」「期待薄」
出典:デジタル大辞泉(小学館)
期待する理由
では、何故期待するのか?本書では具体例を挙げて紹介されていますが、ここでは要約して紹介します。
物理的現実をリアルタイムで処理して行動するのでは間に合わないから期待(予想)します
テニスプレーヤーは熟練するにつれて、相手の次のプレイを予想して行動します。野球選手もボールを打つ時に予想をしています。
価値判断を楽にするために、ラベルを目印に期待します
スーパーの商品からラベルが消えてしまったら、どうやって買い物をすればいいか分からなくなります。毎回、吟味せずに買い物ができるのはラベルと期待が結びついているからです。
興奮が高まり快感だから期待します
ギャンブルは勝負に勝って対価を得る事が目的に見えますが、対価を得るよりも、対価を得られそうだと期待している時が一番快感を得られます。この快感を覚えるとギャンブルへの期待を止める事が難しくなります。
共通認識になると価値になるから期待します
紙幣は物質的には額面以下の価値しかありませんが、期待が共通認識になると額面通りの価値になるから期待します。最近では仮想通過に期待した人が多くいました。
期待の不都合
期待とは想像の中で未来を先取りすることだと思います。少しでも生き残る確率を上げるために期待をすると考えられます。期待することで吟味せずに済み省エネルギーにもなります。しかし、期待することで不都合もあります。
- 期待でプレッシャーがかかり思い通り振る舞えない
- 期待が先入観になり価値判断ができない
- 期待中毒になる
- 他人の期待に影響をうける
- 期待が固定概念になり、力が制限される
期待には良い効果もあれば、悪い効果もある。期待によって力を得ているのか、失っているのかを冷静に判断する必要があります。期待によって力を失っているとしたら、その期待を見直して固定概念を変える必要があります。期待し過ぎると、今が無くなってしまいます。今を確認し自分の立ち位置を確認する方法としてマインドフルネス瞑想があります。

他の記事でアファメーションについて説明しました。アファメーションとは現状から理想の未来へ引き上げるための、自分自身への言葉がけです。言葉が映像になり、映像が感情になる。アファメーションとは期待を力にする方法だと再確認しました。
今回この本を読んだきっかけは、減薬を検討している人から相談を受けたからです。相談者は精神科の先生は能力不足できっと減薬を上手くさせてくれないと感じているようでした。その時、思い出したのはピグマリオン効果でした。ピグマリオン効果とは他人から期待されることによって学習・作業などの成果が上がる現象です。
成績の良いグループと、悪いグループを分けて勉強を教えるのですが、成績表は入れ替えて教師に渡します。成績が悪いグループの生徒に対して教師は成績がいいはずだと思い込んで指導すると、成績が期待に近づいたという実験結果があります。期待は接する相手の力を変えてしまいます。
精神科医を名医にする方法は、自分にとって望ましい期待を相手にかける事ではないでしょうか。名医が通える範囲に居れば良いですが、そうでない人が多いと思います。名医を探すより、今の担当医を名医にしてしまう方が省エネかもしれません。
相手への期待は、結局自分への期待です。出来るだけ望ましい期待を適度にしましょう。