シンポジウム「平成30年度診療報酬改定後のベンゾジアゼピン系睡眠薬の減量」

https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2019/PA03330_02

記事のご紹介

医薬品の正しい情報提供を求める

 三島氏はまず,睡眠薬を初めて服用した患者を追跡した結果,10人に1人が1年以上の長期服用につながったことを示した氏らの調査を紹介した。睡眠薬を処方する精神科医・心療内科医の9割が症状改善後に睡眠薬を中止すべきと考えており,睡眠薬や抗不安薬処方適正化の推進に,複数回にわたる診療報酬改定が一定の成果を与えたと見る向きがある。一方で患者が減薬を嫌がる,減薬のタイミングがわからないなどの理由で実現には至らないケースがあると氏は話し,「適切な患者教育や精神科薬物療法の情報提供が求められる」と今後の課題をまとめた。

引用:http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA03330_02

 消費者は処方薬について詳しく説明を受けていないことが多いと思います。処方薬を自分で調べる方法を知らない場合もあります。薬局で添付文書を見せてほしいとお願いしたら、医療従事者向けだからと拒否された話を読んだことがあります。現在では「医療用医薬品 情報検索 by 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構」で添付文書が公開されていますから、誰でも読めます。

 処方薬を受け取る際に薬局で薬の説明書きを渡されますが、その内容は患者に薬を受け入れさせるための文章で、正しく理解させる意図が全く感じられません。このような薬の説明書きは消費者をバカにしています。私は自分が薬局から受け取った薬の説明書きをコピーして厚生労働省へ渡し、景品表示法の優良誤認(実際のものよりも著しく優良であると示すもの)に当たるのではないかと指摘しました。薬のメリットと同じ分量のデメリットも書くべきだとも指摘しました。

 処方された睡眠薬が以下のどの分類に該当するか明示するだけでも、消費者の判断に役立ちます。

睡眠薬の分類

GABA-A受容体作動薬(本サイトのメインテーマ)

  • バルビツール酸系
  • ベンゾジアゼピン系
  • チエノジアゼピン系
  • Z薬(非ベンゾジアゼピン系)

その他

  • メラトニン受容体作動薬
  • オレキシン受容体拮抗薬

ウェルビーイング思考について

 睡眠薬の減量達成には患者の減薬意思が欠かせない。患者が前向きに減薬を達成するための手法として,須賀英道氏(龍谷大)はウェルビーイング思考を紹介した。ウェルビーイングは肉体的にも精神的にも,社会的にも満たされた状態を指し,ウェルビーイング思考では,健康を創生する視点で医療をとらえる。睡眠薬の減薬をウェルビーイング思考でめざす場合には,睡眠薬服用を主たる問題ととらえて減薬を目標とするのではなく,生活リズム改善の目標のもと副次的に減薬の達成をめざす。この思考法による減薬においては,睡眠薬を減らしても眠れた事実を記録し,できたことの振り返りで自己肯定感を高め,モチベーションを向上させるかかわりが必要になると解説した。

引用:http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA03330_02

ポジティブ心理学(私の理解)

 ウェルビーイング思考について初めて知りました。これはポジティブ心理学の概念であるようです。ポジティブ心理学は自分の心地よさにフォーカスすることで、外的要因に左右されずに目的達成を目指す学問のようです。心地よさは生存本能に関係があり、困難を乗り越える大きな力です。幸福感(持続的な心地よさ)に注目することで、社会と調和がとれて、目的達成が加速します。

 プロサッカー選手の本田圭佑さんの態度がポジティブ心理学だと思います。少年時代からACミランで10番を着けてプレイしている姿だけではなく、それよりも大きな心地よさを想像しているはずです。

 睡眠薬の減薬時に眠れない、気分不安定、筋肉痛、眩しさ、けいれんなど苦痛を伴う離脱症状が起きる場合があります。睡眠薬の使用期間が長いほど減薬が難しくなる可能性があります。離脱症状の苦しさを乗り越えるために、減薬後の心地よさにフォーカスします。

 周囲の情報に右往左往するのではなく、自分の感覚を肯定的に捉えて、そこから答えを導きます。

睡眠薬減薬成功の要因は何か?

 外来患者における睡眠薬減量成功の要因は何か。小鳥居望氏(久留米大)は同大病院精神神経科外来で3種類以上の睡眠薬を3か月以内に複数回処方され,その後1年以上受診を継続した患者を対象に,減薬ができる要因について分析を行った。減薬成功率は年配者や双極性障害の患者で高くルネスタ®やベルソムラ®,アモバン®は中止率が高い睡眠薬だったという。一方,主治医別の減薬成功率には14.3~80.0%と大きなばらつきが見られ,「担当する主治医のモチベーションや医師―患者関係も減薬成功に大きな影響を与えている可能性が高い」と,今後の研究に意欲を示した。

引用:http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA03330_02

中止率が高い睡眠薬

一般名(成分名) 販売名(商品名) カテゴリー
エスゾピクロン ルネスタ Z薬(非ベンゾジアゼピン系)
スボレキサント ベルソムラ オレキシン受容体拮抗薬
ゾピクロン アモバン Z薬(非ベンゾジアゼピン系)

 Z薬とはGABA-A受容体のベンゾジアゼピン結合部位に作用する薬です。GABA-A受容体は5量体(5つのサブユニットの組み合わせ)を成していて、その組み合わせによって性質が変わるそうです。Z薬は特定のサブユニットに選択的に作用し、ベンゾジアゼピン系と比べ抗不安作用が少ない。ベンゾジアゼピン系と区別するために非ベンゾジアゼピン系と呼ばれることがあります。

 オレキシン受容体拮抗薬のベルソムラは2014年11月に発売された睡眠薬です。オレキシンは覚醒に関与する神経伝達物質で、ベルソムラはその作用を阻害し覚醒を弱めて眠りに導く薬です。ベンゾジアゼピン系と比べて依存性が低く、薬を中止した時に反跳性不眠になりにくいと言われています。

参考資料

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