ゲーム障害(Gaming disorder)とは
日常生活よりもコンピューターゲームの優先度が上がりすぎて生活が破綻してしまい、それを自分で修正ができなくなる障害です。国際疾病分類の第11回改訂版(ICD-11)に次の説明があります。
Description
説明Gaming disorder is characterized by a pattern of persistent or recurrent gaming behaviour (‘digital gaming’ or ‘video-gaming’), which may be online (i.e., over the internet) or offline, manifested by:
ゲーム障害は継続的や反復的なゲーム行動(「デジタルゲームをする」もしくは「テレビゲームをする」)のパターンで特徴づけられ、それはオンライン(例えば、インターネットを介して)もしくはオフラインかもしれませんが、以下が認められます:
- impaired control over gaming (e.g., onset, frequency, intensity, duration, termination, context);
ゲームに対するコントロールを損なった(例えば、開始、頻度、強度、期間、終了、状況);- increasing priority given to gaming to the extent that gaming takes precedence over other life interests and daily activities; and
ゲームすることの優先度を上げて、それは他の趣味や日常生活より優先までしてゲームして;そして- continuation or escalation of gaming despite the occurrence of negative consequences. The behaviour pattern is of sufficient severity to result in significant impairment in personal, family, social, educational, occupational or other important areas of functioning.
否定的な結果が発生しているにもかかわらず、ゲームを継続したりエスカレートします。この行動パターンは十分な苦しさを伴い個人的、家族的、社会的、教育的、職業的もしくは他の重要な機能領域に重大な損害を引き起こします。The pattern of gaming behaviour may be continuous or episodic and recurrent. The gaming behaviour and other features are normally evident over a period of at least 12 months in order for a diagnosis to be assigned, although the required duration may be shortened if all diagnostic requirements are met and symptoms are severe.
このゲーム行動のパターンは継続的や一時的そして周期的に起こる場合があります。このゲーム行動と他の特徴は通常判断に最低12ヶ月間かけて診断することを求められていますが、すべての診断要件が満たされ、且つ症状が重症の場合は求められる期間が短くなる場合があります。引用:https://icd.who.int/browse11/l-m/en#/http://id.who.int/icd/entity/1448597234
quit-benzoが和訳追記
中日新聞には以下のように要約されています。
- ゲームをする時間などを自分でコントロールできない
- 問題が起きてもゲームを続ける
- 食事や睡眠などの日常行動や生活上の必要ごとよりもゲームを率先してしまう
- ゲームによって家庭、学業、仕事などに重大な支障が出る
これらの状態が12ヶ月以上続くとゲーム障害に該当する。深刻な場合はより短期間でも診断される。
引用:中日新聞 世界と日本 大図解シリーズ No.1404
2019年5月25日にWHO総会で「ゲーム障害(Gaming disorder)」は採択されました。2022年1月1日に発効されます。


オンライン化により依存リスクが上昇
オンラインゲームは人間の心理を研究して作られていて、とても始めやすく、とても止めにいような仕組みに作られています。
ゲームに終わりがない
インターネット接続によりソフトウェアが随時更新されるので、終わりがないゲームが多くなっています。ゲーム運営会社により次々と新たな目的を与えられます。
「ガチャ」課金システムで効率よくプレー
オンラインゲームのビジネスモデルは、ゲームを始めるのに無償もしくは低価格で提供し、ユーザー数を増やし、課金アイテムを購入させることで開発費を回収し、さらに利益を確保するものです。ゲーム運営会社は課金しないと入手困難なアイテムをいくつも用意します。ユーザーは課金アイテムを入手することで、数十時間単位の時間の節約になり、無課金のユーザーより有利な立場になり、優越感を得られます。更に課金させるためにユーザー同士を競わせようなプログラム更新を随時行います。
「ガチャ」とはゲーム運営会社が決めた確率で行う有料のくじ引きのことです。レアアイテムの場合、当選確率1/1000のように非常に低い場合もあり、射幸心を煽っています。1000回に1回は当選すると思われるかもしれませんが、1000回連続で落選する確率は次の計算になります。
当選確率1/1000のとき、1000回連続で落選する確率
(1 − 1÷ 1000)^1000 = 0.3677
0.3677 × 100 ≒ 36.77(%)
計算結果から約36.77%の確率で1000回連続落選する事が分かります。くじ引き1回100円の場合、1000回なら10万円になります。
当選確率1/nのとき、n回連続で落選する確率
n | 当選確率1/nのとき、 n回連続で落選する確率 |
10 | 約34.87% |
100 | 約36.6% |
1000 | 約36.77% |
10000 | 約36.79% |
オンラインでのつながりが中心
オンライン(インターネットで接続)上での人間関係は日常生活と異なり、不特定多数の中から人を選べるので、居心地いい状況を作りやすいと言えます。現実社会よりもオンラインでのつながりを中心にしてしまう場合があります。
ゲーム中心で生活が破綻
- 昼夜逆転
- 食生活が乱れる
- ゲームの課金で借金
- 運動不足による筋力と骨量の低下
- 不登校や給食が続き引きこもりに
NIP(新アイデンティティプログラム)
久里浜医療センターではNIP(新アイデンティティプログラム)と呼ばれるインターネット依存改善プログラムが行われています。オンライン以外にも自分の居場所や活躍の場が発見できるよう手助けをしているそうです。アイデンティティとは「自分らしさ」の事です。
本人との関わり方
ゲーム依存からの回復は本人が望まなければできません。家族はゲーム依存の背景を学び、本人が孤立しないよう適度なコミュニケーションを図ります。本人の前でゲームを批判せず、ゲームに頼らなくても楽しく生きている姿を見せていきましょう。
生活上注意すること
- 回復には時間がかかることを認識する
- 無断でネット、ゲームを遮断することは原則NG
- 家事などを頼んで生活習慣を変える
タイマーで自覚する
タイマーを使用して、時間感覚と実際の時間の違いを確認して、時間感覚を修正します。
ゲームに没頭すると時間感覚が鈍くなり、長時間ケームをしてしまう場合があります。1時間でゲームを終えると決めたら、タイマーを50分にセットして始めます。タイマーのアラームが鳴ったらゲームを終える準備をします。そして1時間で必ず終えます。休憩時間もタイマーを使用して確認すると良いでしょう。
準備と片付けを得意に
タイマーを活用することで仕事も効率よく行えます。
作業の前には準備があり、後には片付けがあります。その時間を予め含めて作業を計画します。作業に没頭してしまう人は、準備と片付けが苦手なので、一気に終わらせる傾向があると思います。準備と片付けが得意な人は、複数の作業を交互にでき、更に他人に作業を任せることもできます。
同じ作業を続けると誰でも疲れる
楽しいことでも同じ作業を続けると飽きますし、体も疲れます。同じ作業を1時間以上連続しないだけで、行動・プロセスの依存症は防止できると思います。やりたくなくなる前に片付けて、次につなげるほうが、楽に良い作業ができます。
「しなければならない」は効率が悪い
今していることが「好んでやりたい」のか「しなければならない」のか、どちらかの割合が大きいかを自覚することが大切です。「しなければならない」ことにはクリエティブは発想が生まれず、良いパフォーマンスが発揮できません。それを増やさない事が行動・プロセスの依存症防止になると私は考えます。
通院に至らないように予防する
「ゲーム障害」という新たな病気が生まれようとしています。日本の保健医療は医療行為に対して予め診療報酬が決められています。認知行動療法やカウンセリングは30分から1時間程度時間が必要になりますが、それに対して報酬は高くはありません。18歳以上に対するカウンセリング料を調べたのですが、見当たりませんでした。どうもカウンセリングは診療報酬を得られず、全額自己負担か病院のサービスで行っているようです。18歳以上に対するカウンセリングは保険適用がなく、自由診療(100%自己負担)になります。
医師が患者やその家族と会話し、病状の背景などを整理し助言する「通院精神療法」がありますが、問診の延長線上で行っており、カウンセリングとは異なります。カウンセリングは容易に助言を与えるのではなく、本人に自己解決する力を感じてもらう場なので、時間の確保が必要です。そのため、「通院精神療法」の枠内で実施するのが困難であるようです。
診療行為 | 診療報酬(病院の収入) |
認知療法・認知行動療法(医師) | 480点(4800円) |
認知療法・認知行動療法(医師及び看護師が共同) | 350点(3500円) |
小児特定疾患カウンセリング料(1回目) | 500点(5000円) |
小児特定疾患カウンセリング料(2回目) | 400点(4000円) |
通院精神療法(初診日に60分以上) | 540点(5400円) |
通院精神療法(30分以上) | 400点(4000円) |
通院精神療法(30分未満) | 330点(3300円) |
自由診療(100%自己負担) | 料金 |
医師によるカウンセリング | 様々 |
心理職によるカウンセリング | 様々 |
これらの診療行為は消費時間の割に診療報酬が低いので、投薬治療などを積極的に行う必要があります。心理領域の診療科(精神科・心療内科など)へ通院すると、必ずと言って良いほど向精神薬を処方されます。向精神薬は対症療法(症状を押さえ込む)で用いられる事がほとんどです。一時的には仕方がない場合もあるかもしれませんが、その間に具体的な対策をする必要があります。
GABA-A受容体作動薬(ベンゾジアゼピン系、チエノジアゼピン系、Z薬など)の睡眠薬や抗不安薬は2週間から6ヶ月連用するとGABA-A受容体作動薬が機能低下(ダウンレギュレーション)すると言われています。その状態の人は薬を増やしたくなり、心理的依存(薬物への渇望)も見られるようになります。その悪循環を繰り返すと、全く眠れないし、気分の浮き沈みが激しくなります。当初の治療目的と逆の結果になる場合が多くなります。この状態からの回復にはGABA-A受容体作動薬の適切な減薬が必要ですが、薬を減らすと興奮傾向になるので今までの日常生活と減薬を両立させるのが非常に困難です。
GABA-A受容体作動薬以外にも向精神薬(精神に何らかの影響を与えることを主とする薬物)は多くあり、その副作用も様々です。
向精神薬を処方されて人生を破壊される可能性があるので、「ゲーム障害」のような生活習慣の改善や、生活環境の調整で予防できる症状は、必ず予防してください。
精神医療では新しい病気が生み出されています。そのことで一番利益を得るのは誰でしょうか?